横川淳さん

横川さんは、広島県の呉市というところで物理と化学の先生をされている方です。
実は、この呉、ぼくの故郷でもあります。
しかも、阿賀という町まで一緒で「あの通りにパン屋があったよね」とローカルネタが通じたりもしました。
ご縁というのは不思議なものです。

さて、横川さんはとても好奇心旺盛で、「カガクのじかん」という素晴らしいブログを書いていらっしゃいます。
http://d.hatena.ne.jp/inyoko/

思いつかれたアイデアを徹底的に調べられる行動力には本当に頭が下がります。
ぼくが特に好きだったのは、平方根の話。
実はぼく
100 = 62 + 82
という数式が大好きなんです。
チェスの盤は8×8マスですが、そのまわりは9マス×4辺で36マスになります。
つまり、数的には62 。
そのことをお伝えすると、早速200×200までで同じ構造になるものを調べてくださいました。

今回のシンボル作成の特徴をひとことで言えば「クライアントさんに教えてもらう」。
横川さんの知識と発想にお世話になりっぱなしだったのですが、そのあたりは追々。

さて、横川さんは非常に真摯な姿勢で教育に向かわれており、次の一文には強く心を打たれました。

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「一燈照隅(いっとうしょうぐう)」という言葉があるそうでして、あるときから私の座右の銘的なフレーズになっています。「一燈照隅 万燈照国」とセットで言うこともあるようです。1人1人が自分の周囲を照らすことによって、やがて国全体が明るくなる・・・という意味だと思います。私もその「一燈」でありたいという気持ちを常に持っています。

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ぼくも「一隅楽しまざれば万座憂う(楽しんでいない人がいれば、全体が沈んでしまう)」という言葉が大好きなので、そのあたりでもシンクロするものがありました。
そんな感じでメールのやりとりをした後、スカイプでも面談。
メールで感じていた理知的な印象はそのままでしたが、実際にお話しして思い浮かんだのは「振り子」のイメージでした。
呉という街と現在の生活に愛着をもたれながら、ある種の閉塞感も持たれていたからです。

そこで、次の2案をご提示し、以下の解説をつけました。

 

030_横川さん

 

A案
イニシャルであるYの字をベースに、それが一燈となり、あたりを照らしている図です。
これは、メールの段階からあったイメージで、ほぼ一貫して感じていた横川さんのイメージと言えます。

B案
こちらは、昨日お話しさせていただく中ででてきた「振り子」をテーマにした抽象的なイメージ。
左側の丸の中が現状を表しています。
いろいろなことにとてもバランスの取れた印象を受けましたので、振り子の振り幅も正三角形を描く感じにしました。
一方、そこから一歩を踏み出されるのはおそらく新しい要素を何か加えるというよりも、振り幅を大きくされる分野をつくられることではないかと感じた次第。
そして、それが進むべき方向を示してくれるだろうというのが、右側のパートに当たります。

という2案のうち、横川さんが選ばれたのはBの「振り子」案でした。
ぼく自身もそちらがしっくりきていたので「これはすんなり展開できるかな」と喜んだのですが、事態は思わぬ方向に展開していきます。
というのは、横川さんが振り子からリサジュー図形を連想されたからです。
リ…、リサジュー図形?
まずはその説明を、丁寧にしてくださいました。

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リサジュー図形は、
x方向: 振幅a, 周期p
y方向: 振幅b, 周期q, 初期位置のズレu
これだけのパラメータで描かれるものです。

x方向とy方向で周期が異なっていると、その周期の関係に応じていろんな図形が描かれます。初期位置のズレは、図形を微調整する役割があるみたいです。

★面白いなと思った点は・・・
(1)周期p,qの比率が有理数の場合は、いずれもとの位置に戻ってきて、同じ軌道を繰り返し動いていくようになる。
(2)周期p,qの比率が無理数の場合は、そうはならない。永遠に異なる軌道を動いていく。
(3)振幅を変えると、当然ながら動ける範囲が広がっていく。

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リサジュー

 

う~む。知的です。
これまでほとんど触れたことのない世界だったので少々面食らいましたが、こうして自分にとって新しい世界が広がるのも、この仕事のおもしろいところと言えます。

横川さんは、加えてご自身の心情を吐露してくださいました。
いまの仕事を始めてちょうど12年になること。次の12年を「繰り返しの12年」とするか「新たな12年」とするかは「有理数→無理数」に投影できるかも知れないこと。
数学の世界での無理数における「無理」は日常的な意味での「無理」ではないが、あえて日常生活の無理にかけてみると、挑戦意欲の表明にできるのではないか、と。

う~む。
本来、ぼくが発想すべきところを、より詳細に解説していただいた感じです。
そして、さらに詳細なリサジュー図形への「思い」が届きました。

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(1)2つの要素の引っぱりあいによって軌跡が決まるというのが、自分の置かれた状況を表しているような気がする。
それは例えば「教育とビジネス」のように両者の間でバランスを取った舵取りをせねばならない、などということを表します。

(2)軌跡はある範囲内に収まる。
これは例えば「呉市」などにこだわる私あるいは弊社の状況を表していると思います。

(3)2つの振動の周期の比率が有理数比(3と4など)である場合、いつかはもとの軌跡に戻ってくる。その後は同じ振動の繰り返しになる。
これは私が「打破したい」と思っている現状を表します。
これまでと同じことを繰り返して40台・50台を過ごしたくはありません。

(4)2つの振動の周期の比率が無理数比(3と√2など)になると、もとの軌跡に戻ってくることはない。
これが私が目指したい一つの方向性だと思います。
「無理」という言葉も面白いポイントです。
数学の世界の「無理数」の「無理」は、日常生活の「無理」とは意味が異なりますが、わざと混同しますと、「現状のままだと同じことの繰り返しになる。そこでちょっと無理をすることによってあたらしい境地を探索できる」というような意味になると思います。

(4′)数学の世界の無理数は有理数のすぐそばに無数に存在します。
そのことはまた「ちょっと踏み出せば(=無理なことをしてみれば)新しい境地が待っているんだぞ」ということを暗示しているように思えます。
また、「せんせい」という職業柄、生徒には新しいチャレンジを推奨するようなことをよく口にするのですが、それなら自分自身がチャレンジしなくては!
そのチャレンジは「一歩踏み出すだけ」でできるんだ!ということも表しているように思います。

(5)無理数比になっても、振動する範囲は最初の正方形の中には収まります。
これは「呉市」とかいう範囲で仕事をしたい自分の希望をうまく反映していると思います。

(6)Yの字の振り子でリサジュー図形ができるというのもイニシャルっぽくて面白いと思いました。(意匠に込めるかどうかは別として・・・)

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いや、もう脱帽…。たじたじです。
一瞬「横川さん、ぼくのシンボルを作ってくれませんか」と思ったことは内緒です(笑)

さて、リサジュー図形を取り入れる話になったので、「それじゃぁ、あらためてラフを出しますね」とは言ってみたものの、さて、どうやって描こう?
良さそうな形をピックアップしようと思ったみたけれど、ネット上にアップされているのはいずれも有理数のものばかり。無理数のリサジュー図形って…。

と、ひとしきり悩んだところで思いつきました。
「あぁ、横川さんに原画を描いてもらおう」。
何だかそれを描くアプリがあるみたいだし。
というわけで、さっそく打診をしてみると、快く引き受けてくださいました。

そして、届いた資料に、またもやぼくは驚愕することになります。
まず、画像がこちら。

 

030_6と√13_02_7

 

そして、それをシミュレートした動画がこれ。
https://www.youtube.com/watch?v=DZ-lypf5-3Q&feature=youtu.be

さらに、以下のような詳細な解説がついていました。

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●周期の選び方は、次のように考えました。
今の仕事を始めてから12年が経ったので、ベースとして「有理数で公倍数が12になる組み合わせ」をまず選びました。
「3と4」「6と4」などいくつか試して、「6と4」の形が気に入ったのでそれを選びました。

次に、そこから「ちょっと無理をしてはみだす=無理数」としては、13年目ということから「√13」を選びました。
(ただしソフトウェアの限界から、厳密に√13ではなくて、3.6055513という近似値を用いていますが)

「ルート」とはもちろん「道」という意味とかけています。なんだか言葉遊びが多いですね(笑)

●初期位相について
初期位相0,0.1,0.2,0.3などを調べてみると、それぞれに個性があることが分かりました。
その中でも気に入ったのが0.2です。

この位相バージョンは、初期段階で少し移動範囲を確定させ、以後はその範囲内を埋めて行っています。
範囲内が埋まった後もその範囲内を動いている(=同じことを繰り返そうとしている)が、徐々に範囲の端まで点が移動してきて、t=150近辺(動画の1:10近辺)から少しずつ外にはみ出しています。はみ出し方は「自分がたどった軌跡を少しずつ膨らませるように次の道を選ぶ」という形式。

ちょうどその「はみ出し始め」あたりの画像が、添付したpng画像です。

この「とりあえずの範囲内を埋める」「一旦、その中で安住しかける」「しかし今からはみ出していく」というストーリーは、今回ロゴマークに込めたい思いをサポートしてくれるような気がしました。

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いや、もう、この図がシンボルでいいんじゃないでしょうか…。
というか、ホントごめんなさい。
ぼくが書くべきことを、何倍もかっこよく書いてくださいました。

しかし、まぁ、そこから先に進めるのがぼくの仕事でもあるわけで、以下の2点を加味したラフをご提示しました。

・両端の折り返しを大きく外にデフォルメ
無理数の非反復図形であるとはいえ、正方形の中に納まっているのは、やはり予定調和的な感じがします。
正しいリサジュー図形ではありませんが、軌道を外れるダイナミズムを出しました。

・まわりに9つの丸を置く
呉へのこだわりが強いことを踏まえ、図形のまわりに9つの丸を置きました。
呉は「九嶺(9つの山に囲まれている)」が語源だと言われることもあるからです。

何か、もう、マニアのケンカのような進行です(笑)

 

030_2_横川さん

 

 

下絵も手に入り、構図も決まったので、あとはつくるだけになったわけですが、さて、どうしよう…。
これ、トレースするの… という感じの下絵なわけです。

横川さんは、原画に忠実に複数のラインにするか、まとまった形にするかは「お任せします」と言ってくれましたが、そりゃ複数のラインにした方がいいに決まっています。
それにしても、この繊細さ…。
ベジェ曲線を触ったことのある方ならば、その不安定さをよくご存知だと思いますが、それをこれだけ幾何学的に奇麗に並べられるかどうか自信がありませんでした。

ちなみに、ベジェ曲線というのは物体が移動する関数をもとにしています。リサジュー図形との相関が感じられる仕組みですね。
わかりやすい解説がこちらに載っているので、ご覧ください。
http://ruiueyama.tumblr.com/post/11197882224

ともあれ、クライアントさんが勇気をもって踏み出そうとするシンボルをつくるのに、制作者が怖じ気づいて引き下がるのはまったくもって情けない話です。
よって、腹をくくって取りかかることにしました。
そして、やれば何とかなるものですね。
結果、出来上がったのが、こちらの画像です。

 

02

 

さっそく横川さんにお送りしたところ、嬉しい感想が返ってきました。

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いや~!!!
スギオカさん、すごいですねこの図は!
ありがとうございます!ちょっと身震いしてしまいました。

一つちょっと思ったのが、「現在位置を表す点か線」を付け加えたらどうなるだろう?ということです。
いただいた図は妙に「完成形」のように感じられたので、「今から出て行くぞ」という不安定さをどこかに入れたらどうなるかな? と思いました。

具体的には、あくまで一例ですが、下から右上にはみ出して伸びる曲線群のうち一番左のラインだけ赤? (何色がいいでしょうね???)にしてみるとか・・・。
もととなったリサジュー図形では、動点は一旦この曲線群の内部を埋めていって、そして曲線群の端へ移動して、そこから外へ出て行くという動きだったと思います。
その「今から出て行くぞ」という境界みたいなものを表現するとどうなるかな? と思いました。

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これまた、頭の下がるご指摘です。
正方形に納まっていることをスタティックに感じて枠の外に出したわけですが、対称性が残れば、それでもなお静的になるのだなぁ、と。
ご要望いただいた点についてさらにやりとりを重ね、完成にいたりました。

今回は全体を通して教えていただくことの本当に多い制作でした。
途中で少し触れたように、横川さんにこそぼくのシンボルを作ってもらいたいと思ったくらい。
あらためて思えば、一見無個性のように思われる数式にも「その人らしさ」って重ねられるわけですね。それって、とってもおもしろい比喩じゃないでしょうか?

 

03

 

tsugi

 

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